過払い金の時効は起点が条文に書かれていない
「過払い金は10年で時効」と書かれているのをよく見ます。条文を開くと、そう単純ではありません。期間が2つ並んでいて、しかも起点が条文に書かれていません。
過払い金の返還請求は不当利得
まず、何を請求しているのかを条文で確かめます。民法703条です。
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
利息制限法の上限を超えた部分の約定は無効なので、その部分の支払いには法律上の原因がありません。だから返還を求められます。上限が元本の額で分かれることは過払い金の仕組みは上限金利で決まるにまとめました。
業者が悪意なら利息が付く
704条は、受益者が悪意だった場合を別に定めています。
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
「悪意」は日常語の悪意ではなく、法律上の原因が無いことを知っていた、という意味です。知っていたかどうかは事案ごとの判断になるので、条文だけでは決まりません。それでも元本だけでなく利息も請求できる場合があることは押さえておく箇所です。
消滅時効の期間は2つある
民法166条1項が、債権の消滅時効を2つ並べています。
債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
5年一号
数え始める日権利を行使することができることを知った時
10年二号
数え始める日権利を行使することができる時
どちらか早いほうで時効が完成する。「10年」だけを見て時間があると考えると、5年のほうが先に来ている場合がある
どちらか早いほうで時効が完成します。 「10年」だけを見て時間があると考えると、5年のほうが先に来ている場合があります。
改正の前に生じた債権は扱いが違う
166条1項のこの形は、民法の改正で入ったものです。附則の10条4項がこう定めています。
施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。
施行日より前に生じた債権には、改正前の期間が適用されます。では施行日はいつか。改正法の附則1条は「公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」としていて、条文には日付が書かれていません。実際の日付は政令で定められていますが、当サイトではその政令を e-Gov で確認できていないため、日付そのものは掲載していません。
読者の側で必要なのは日付の暗記ではなく、自分の取引が改正の前か後かを確かめることです。これは取引履歴を見ないと分かりません。
起点がいつかは条文に書かれていない
いちばん大きい論点がここです。166条1項は「知った時」「権利を行使することができる時」と書いていますが、過払い金についてそれが具体的にいつなのかは民法に書かれていません。
同じ業者と何度も借入と返済を繰り返している場合、1回ごとの返済に起点があるのか、取引全体が終わった時なのかで、結論が何年も変わります。この点は条文ではなく裁判所の判断の積み重ねで決まっている領域なので、当サイトでは条文で確認できる範囲を超えて断定しません。
確かめ方は決まっています。借入先ごとの取引履歴を取り寄せて、最初の取引と最後の取引がいつかを出すことです。その資料があって初めて、時効の話ができます。
だから先に取引履歴を取り寄せる
貸金業法は、債務者が帳簿の閲覧や謄写を請求できると定めています。費用も含めた手順は相談の前に取引履歴を取り寄せるにまとめました。
借りている側の債務がいつ消えるかは、更新と完成猶予の条文が別に効きます。借金の時効は、待っている間に何度でも振り出しに戻るで分けて整理しました。
取り寄せに時間がかかるので、迷っている間に期間が過ぎることがあります。請求できるかどうかを判断する材料が先に要る、という順序になります。
時効が完成しても、援用がなければ効果は生じない
もう1つ、条文を読まないと分からない点があります。民法145条です。
時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
期間が過ぎたら自動的に権利が消える、という書き方ではありません。援用できる人には保証人や物上保証人も含まれると、括弧の中で明示されています。
もっとも、貸金業者が援用しないことを期待して手続きを進めるのは現実的ではありません。期間が過ぎている可能性があるからといって、確かめる前に諦める理由にはならない、という程度に読むところです。
なお附則10条は、援用についても1項で「なお従前の例による」としています。改正の前後で扱いが分かれるのは期間だけではありません。
完済していても請求できる場合がある
過払い金は、すでに完済した取引でも生じます。借入が残っている場合は残りの債務と相殺する形になり、完済している場合は返還を求める形になります。
借入が残っている場合は、過払い金がいくらになるかで手続きの選び方まで変わります。相殺した結果、残高がほとんど無くなることもあれば、減額の交渉が要ることもあります。どの手続きを選べるかは残高で決まるので、順序としては履歴の取り寄せが先になります。
事務所の報酬体系も、この2つで分かれていることがあります。費目の分かれ方は債務整理の弁護士費用は1社あたりか総額かで変わるにまとめました。
迷ったときの窓口
請求できるかどうかの判断には資料が要ります。法テラス(日本司法支援センター)は、収入等の条件を満たす場合に無料の法律相談を扱っています。各地の弁護士会・司法書士会にも相談窓口があります。貸金業者とのやり取りでもめている場合は、消費者ホットライン 188 が窓口になります。
起点が争いになるなら、代理できる相手を見る
起算点が条文に書かれていない以上、業者との間で見解が分かれることがあります。そのときに代わりに交渉できるかは、金額と資格で決まります。
司法書士が代理できるのは1社あたり140万円までです。しかも認定を受けた司法書士に限られます。大阪のアース司法書士事務所は、代表者の認定番号(第612074号)を事務所紹介のページに載せています。番号があれば司法書士会に問い合わせられます。
まとめ
- 過払い金の返還請求は民法703条の不当利得にあたる
- 業者が悪意の受益者にあたる場合は704条で利息が付く
- 消滅時効の期間は166条1項に2つあり、早いほうで完成する
- 改正前に生じた債権は附則10条4項により従前の例による
- 改正法の施行日は条文になく、政令で定められている
- 起点が具体的にいつかは民法に書かれていない。取引履歴を取り寄せて確かめる