債務整理の口座凍結は相殺|手続きごとに違う
借金の整理を考えているときに、口座が使えなくなると聞くことがあります。給与の振込口座だと生活に直結するので、先に仕組みを見ておきます。
「口座凍結」は法律の言葉ではありません。条文にこの語は出てきません。起きているのは相殺です。
銀行がしているのは相殺(民法505条1項)
同じ銀行に預金と借入の両方があると、銀行から見れば相手に債務(預金の払戻し)を負い、同時に相手へ債権(貸付の返済)を持っている状態になります。
民法505条1項がこの場面を扱っています。
二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
対当額について相殺によってその債務を免れることができる、とあります。預金と貸付を差し引きして、残った分だけを扱う形です。
条文は「双方の債務が弁済期にあるとき」を要件にしています。借入のほうが弁済期に来ていなければ、この要件は満たされません。そこで効いてくるのが期限の利益の喪失で、中身は期限の利益の喪失|残り全部が一度に来るにまとめました。
つまり順番はこうなります。返済が滞るか、依頼した専門家からの通知が届く。銀行の約定にもとづいて期限の利益が失われる。借入が弁済期に来る。そこで相殺の要件が揃い、銀行は払戻しを止めて計算に入ります。読者から見ると、この「払戻しを止める」ところが口座凍結に見えています。
依頼を受けた側が出す受任通知が届いたあと、取立てが止まる話は受任通知が届くと取立てが止まるにまとめました。止まるのは取立てで、相殺は別の話です。
手続きに入れば、回収は手続きの中でしかできない
自己破産を選ぶと、債権者は個別の回収ができなくなります。破産法100条1項がこう定めています。
破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができない。
個人再生でも同じ形の規定があります。民事再生法85条1項です。
再生債権については、再生手続開始後は、この法律に特別の定めがある場合を除き、再生計画の定めるところによらなければ、弁済をし、弁済を受け、その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができない。
どちらも手続きの外で回収してはいけないと書いています。ここだけを読むと、口座の話も止まりそうに見えます。
ところが相殺は、その外に置かれている
破産法67条1項が例外を作っています。
破産債権者は、破産手続開始の時において破産者に対して債務を負担するときは、破産手続によらないで、相殺をすることができる。
破産手続によらないで、相殺をすることができる、とあります。手続きによらなければ行使できないと定めた同じ法律の中に、相殺だけを外へ出す条文が置かれています。
個人再生も同じ向きですが、条件が付きます。民事再生法92条1項です。
再生債権者が再生手続開始当時再生債務者に対して債務を負担する場合において、債権及び債務の双方が第九十四条第一項に規定する債権届出期間の満了前に相殺に適するようになったときは、再生債権者は、当該債権届出期間内に限り、再生計画の定めるところによらないで、相殺をすることができる。債務が期限付であるときも、同様とする。
こちらは当該債権届出期間内に限り、という限定が入っています。期間を過ぎれば、再生計画によらない相殺はできなくなります。
弁済を受けること
- 破産法100条1項は手続きによらなければ行使できないとする
- 民事再生法85条1項は再生計画によらなければできないとする
相殺すること
- 破産法67条1項は破産手続によらないでできるとする
- 民事再生法92条1項は債権届出期間内に限ってできるとする
違うのは条文が外に出しているかどうか。回収は外に出せず、相殺は出せる
だから手続きを申し立てたから口座は守られる、とは言えません。守られるのは個別の取立てのほうで、相殺は条文が別に扱っています。
任意整理だけは、相手を選ぶところから始まる
任意整理は裁判所の手続きではなく、裁判外の和解です。法律に手続きの規定が無いぶん、どの債権者と話すかを自分の側で決められます。
自己破産と個人再生は、債権者を選べません。選んで一部だけに払うと、破産では偏頗弁済として扱われます。中身は偏頗弁済は免責の判断に関わるにまとめました。
そこで実務では、預金のある銀行を対象から外して任意整理を組むことがあります。外せば、その銀行との間に相殺の場面が来ません。
ただし外せるかどうかは事情によります。その銀行への借入額が大きければ、外したままでは返済が続けられません。どの手続きが合うかは個人再生と自己破産はどちらを選ぶか、任意整理で足りるかは任意整理を考えるときに見るものにまとめました。
給与の振込口座は、先に分けておく
相殺の対象になるのは、その口座にある預金です。給与が振り込まれた直後だと、その月の生活費がそのまま対象に入ります。
差押えの場合は、給与そのものに範囲の制限があります。ところが振り込まれたあとの預金には、その制限がそのまま及ぶとは限りません。差押えの側の枠の話は口座の差し押さえに4分の3の枠は無いにまとめました。
借入のある銀行と、給与の受け取りに使う銀行が同じなら、相談する前に受け取り先を分けておくと、生活費が計算に巻き込まれません。
ただし、財産を隠す目的で動かすことは別の問題になります。自己破産では財産の状況を裁判所に出すことになるので、何をいつ動かしたかは説明できる形にしておいてください。
引き落としも同じ口座で止まる
口座が使えなくなると、公共料金や通信料の引き落としも通りません。延滞になれば、その事業者との関係で別の不利益が出ます。
払戻しが止まる前に、引き落としの設定をどこに置いているかを一覧にしておくと動きが速くなります。どこから何が落ちているかは、通帳かウェブの明細でしか分かりません。
迷ったときの窓口
費用のかかる依頼を決める前に、公的な窓口で聞くこともできます。法テラス(日本司法支援センター)と、消費者ホットライン 188 が入口になります。
依頼する相手を選ぶ段階では、代理できる範囲が金額で分かれます。司法書士が裁判外の和解を代理できるのは1社あたり140万円までで、しかも法務大臣の認定を受けた認定司法書士に限られます。線の引き方は司法書士と弁護士の違いは140万円で分かれるにまとめました。
相談する相手を決めるとき
上のとおり、避けられるかどうかは「どの債権者を対象にするか」で決まります。そこは自分だけで決められる話ではないので、資格のある相手に見てもらうことになります。
このサイトが載せているアース司法書士事務所は認定司法書士の事務所で、代表者の認定番号が公式サイトの事務所紹介に出ています。上に書いた1社あたり140万円の線が、そのまま扱える範囲の上限になります。
シン・イストワール法律事務所は弁護士の事務所で、代表弁護士の登録番号が公式サイトにあります。金額の上限はありませんが、費用の立て方が事務所ごとに違います。どちらも、預金のある銀行を対象に入れるかどうかを最初に聞いてください。そこが決まらないと、給与の受け取り先を動かす必要があるかも決まりません。
まとめ
- 「口座凍結」は法律の言葉ではない。起きているのは相殺
- 民法505条1項は、双方の債務が弁済期にあるときの相殺を認めている
- 破産法100条1項は、破産債権を手続きによらずに行使することを禁じている
- 民事再生法85条1項も、再生計画によらない弁済を禁じている
- 破産法67条1項は、相殺だけを破産手続の外でできるとしている
- 民事再生法92条1項は、債権届出期間内に限って再生計画によらない相殺を認めている
- 任意整理は裁判外の和解なので、話す相手を選べる
- 給与の受け取り先と借入先が同じなら、相談する前に分けておく
手続きを選ぶ前に、どの銀行に預金と借入の両方があるかを書き出してください。