期限の利益の喪失|残り全部が一度に来る
分割で払っていたはずの借金について、残り全部を一度に払えという通知が届くことがあります。この状態を、期限の利益を失ったといいます。
何がそれを起こすのかは、法律の側と契約書の側に分かれています。先に法律の側を見ておくと、契約書のどこを読めばよいかが決まります。
分割で払えるのは、債務者のために決めた期限だから(民法136条1項)
まず出発点になる条文があります。民法136条1項です。
期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
来月払えばよい、5年で返せばよい、という期限は払う側の利益として置かれている、という推定です。だからこれを失うと、待ってもらえる根拠が消えます。
法律が挙げているのは3つだけ(民法137条)
では、どういうときに失うのか。民法137条が挙げています。
次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
続く各号のうち、1号がこれです。
債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
2号は担保を滅失・損傷・減少させたとき、3号は担保を供する義務があるのに供さないときです。3つとも、返済が遅れたことは入っていません。
つまり**「1回でも遅れたら一括請求」と法律が決めているわけではない**ということです。それでも実際に一括請求が来るのは、契約書のほうに書いてあるからです。
一括請求の根拠は、たいてい契約書の側にある
貸付けやカードの契約書には、期限の利益喪失に関する条項が置かれています。遅滞が一定回数や一定額に達したとき、あるいは他の債務で差押えを受けたときなどに、残額の全部を直ちに支払う、という形です。
だから読むところは、法律の条文ではなく手元の契約書になります。条項を探すときの手がかりは「期限の利益」「直ちに」「残債務」の3語です。
民法137条
- 破産手続開始の決定を受けたとき
- 担保を滅失・損傷・減少させたとき
- 担保を供する義務があるのに供さないとき
契約書の期限の利益喪失条項
- 遅滞の回数や金額に達したとき
- 他の債務で差押えを受けたとき
- 内容は契約ごとに違う
違うのは書いてある場所ではなく中身。遅れたことを理由にできるのは契約の側だけで、法律の側には入っていない
クレジットカードのショッピングには、20日の制限がある(割賦販売法30条の2の4)
契約書に書けば何でも通るわけではありません。クレジットカードのショッピング(包括信用購入あっせん)には、割賦販売法30条の2の4が制限を置いています。
包括信用購入あつせん業者は、包括信用購入あつせん関係受領契約であつて次の各号に掲げる包括信用購入あつせんに係るものについて当該各号に定める支払分又は弁済金の支払の義務が履行されない場合において、二十日以上の相当な期間を定めてその支払を書面(購入者又は役務の提供を受ける者の保護に支障を生ずることがない場合として経済産業省令・内閣府令で定める場合にあつては、電磁的方法)により催告し、その期間内にその義務が履行されないときでなければ、支払分又は弁済金の支払の遅滞を理由として、契約を解除し、又は支払時期の到来していない支払分若しくは弁済金の支払を請求することができない。
長いので分けます。20日以上の期間を定めて、書面で催告して、それでも払われないとき。この順を踏まなければ、解除も一括請求もできません。
そして同条2項が念を押しています。
前項の規定に反する特約は、無効とする。
契約書に「1回の遅滞で直ちに全額」と書いてあっても、この部分は通りません。ただし対象はショッピングのほうで、キャッシングは貸金業の契約なので、同じカードでも扱いが分かれます。
20日が7日になる場合がある(30条の5の7)
この20日には、条文の側に読み替えが置かれています。30条の5の7です。
認定包括信用購入あつせん業者がその交付し又は付与したカード等に係る極度額が政令で定める金額以下である利用者と包括信用購入あつせん関係受領契約を締結した場合における第三十条の二の四第一項の規定の適用については、同項中「二十日」とあるのは、「七日以上二十日以下の間で政令で定める日数」とする。
金額と日数は政令にあります。割賦販売法施行令23条1項です。
法第三十条の五の七の政令で定める金額は、十万円とする。
同条2項が日数です。
法第三十条の五の七の規定により読み替えて適用する法第三十条の二の四第一項の政令で定める日数は、七日とする。
極度額10万円以下のカードでは、催告の期間が7日になることがあります。同じ7日の枠が、登録少額包括信用購入あつせん業者にも置かれています(35条の2の6第1項、施行令25条)。後払いの少額サービスがこちらです。
だから「20日は必ずある」と考えて動くと、間に合わないことがあります。届いた催告書に書かれた期日を、そのまま読んでください。2項の「反する特約は、無効とする」が働くのは、自分に当てはまる側の日数を下回る特約についてです。
遅延損害金には上限がある(利息制限法4条1項)
一括請求とあわせて、遅延損害金が乗ります。ここにも条文の上限があります。利息制限法4条1項です。
金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条に規定する率の一・四六倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
同法1条の率は元本の額で3段階に分かれます。中身は過払い金の仕組み|上限金利は元本で3段階にまとめました。1.46倍を超える部分は無効なので、請求書の遅延損害金の率も確かめる対象になります。
通知が来てからできること
一括請求の通知が届いた時点で、分割に戻す交渉ができなくなるわけではありません。実務では、和解であらためて分割の約束を組み直すことになります。
そのときに効くのが、受任通知(依頼を受けた側が出す通知)で取立てが止まる仕組みです。根拠と、止まるものと止まらないものの区別は受任通知が届くと取立てが止まるにまとめました。
督促を放置したまま時間が過ぎると、次は裁判や差押えの段階に移ります。差押えまでの順序は借金の公正証書があると裁判を経ずに差し押さえられるにあります。
手続きを選ぶ前に確かめること
一括請求が来ている状態でも、選べる手続きは残っています。どれを選ぶかは金額ではなく、残したいものと決める人で分かれます。債務整理の種類は、決める人で分かれるに整理しました。
窓口を選ぶときは、名乗っている資格を名簿で確かめられます。やり方は債務整理のおすすめを名簿で確かめるにまとめました。
一括請求が来ている相手が1社あたり140万円を超えているなら、頼める相手が変わります。認定司法書士(法務大臣の認定を受けた司法書士)なら、1社あたり140万円までは代理できます。アース司法書士事務所は、事務所紹介のページに代表者の認定番号(第612074号)と大阪司法書士会の登録番号を載せています。シン・イストワール法律事務所は弁護士事務所なので、この金額の線がかかりません。分かれ方は司法書士と弁護士の違いは代理できる金額(1社あたり140万円)にあります。
期限の利益を失うと、銀行の側で別のことが起きる
一括で請求できるようになるということは、借入が弁済期に来たということです。同じ銀行に預金があると、そこで相殺の要件が揃います。
払戻しが止まって口座が使えなくなるのは、この形です。条文の並びは債務整理の口座凍結は相殺|手続きごとに違うにまとめました。
まとめ
- 期限は債務者の利益のために定めたものと推定される(民法136条1項)
- 民法137条が挙げるのは破産手続開始の決定、担保の滅失・損傷・減少、担保を供さないこと
- 返済が遅れたことは、民法137条に出てこない
- 一括請求の根拠は契約書の期限の利益喪失条項にあることが多い
- クレジットカードのショッピングは、書面催告を経なければ一括請求できない(割賦販売法30条の2の4第1項)。期間は原則20日以上で、極度額10万円以下などでは7日になることがある
- これに反する特約は無効(同条2項)。ただしキャッシングは貸金業の契約で扱いが別
- 遅延損害金は利息制限法1条の率の1.46倍を超える部分が無効(同法4条1項)
まず手元の契約書で「期限の利益」の3文字を探してください。どの条件で失うことになっているかは、契約ごとに違います。