任意整理のデメリットと、先に確かめること
任意整理は4つの手続きのなかで最も軽いと説明されます。裁判所を通さず、官報にも載りません。ただし軽いことと、影響が無いことは違います。
条文で確認できる範囲だけを整理しました。
相手が応じなければ成立しない
任意整理は裁判所を通さない話し合いです。債権者が減額や分割に応じる義務は、どの法律にも書かれていません。
任意整理でまとまるものは、民法695条にいう和解です。
和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。
「当事者が互いに譲歩をして」から始まっています。片方が決めて相手が従う形ではなく、両方が譲る約束をして初めて効力が生じます。債権者が譲らないと決めれば、そこで成立しません。
裁判所を通す手続きとの違いは、誰が決めるかにあります。個人再生には裁判所の認可があり、自己破産には免責の決定があります。任意整理にはどちらもありません。
減額の診断で出てくる数字は、この和解の前の数字
借金がいくら減るかを入力だけで出す診断やシミュレーションを見かけます。そこで出てくるのは、入力した条件から機械的に計算した見込みです。民法695条の和解が成立する前の数字なので、債権者の譲歩を織り込めません。
引き直し計算で元本そのものが減る場合は別で、そちらは上限を超えて払った分の話です。どこまでが計算で決まり、どこからが相手の同意で決まるのかは過払い金の仕組みは上限金利からに分けて書きました。
4つの並びは債務整理の種類は決める人で分かれるにまとめました。
1社だけを対象にできる。相手を選べるのは任意整理だけ
「車は残したいのでローンだけ外したい」「保証人がいる1社だけ避けたい」という場面があります。任意整理はこれができます。裁判所を通さない話し合いなので、誰と交渉するかを自分で決められます。
裁判所を通す2つは、そうなっていません。破産法100条1項です。
破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができない。
民事再生法85条1項も同じ形です。
再生債権については、再生手続開始後は、この法律に特別の定めがある場合を除き、再生計画の定めるところによらなければ、弁済をし、弁済を受け、その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができない。
**どちらも「手続によらなければ」「再生計画の定めるところによらなければ」と書いています。**債権者ごとに扱いを変えることを認めていません。****特定の1社だけ従来どおり払う、ということはできません。
だから選び方はこうなります。
特定の債権者だけを対象にする、または外す
- 任意整理だけ
全部まとめて減らす
- 個人再生
- 自己破産
違うのは対象を選べるかどうか。外す自由には代償があり、任意整理は相手に応じる義務が無いので減額の幅は交渉しだい
ただし外す自由には代償があります。任意整理は相手が応じる義務が無いので(上の章)、減額の幅は交渉しだいです。全部を対象にする手続きのほうが、減る額は大きくなります。
外したい理由が保証人なら、保証人にも効力が及ぶも読んでください。任意整理でその1社を外しても、他社を整理したことが保証人に伝わる場面はあります。
支払いを約束すると時効が更新される
いちばん見落とされやすい箇所です。民法152条1項です。
時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
「新たにその進行を始める」なので、それまでに経過した期間は消えます。任意整理は「いくらをいつまでに払う」と約束する手続きなので、その時点で債務を承認したことになります。
つまり、時効が完成しかけていた借金でも、交渉に入った時点で振り出しに戻る可能性があります。消滅時効の期間そのものは過払い金の時効は起点が条文に書かれていないにまとめました。借金そのものの時効は借金の時効は何年で完成するかで追いました。
同条2項には、承認の要件についてこう書かれています。
前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
承認は処分行為ではないので、要件が緩く定められています。軽い気持ちの返答でも承認になり得る、という向きに働きます。
完成猶予と更新は別のもの
条文は2つの言葉を使い分けています。民法147条1項が「完成猶予」で、裁判上の請求・支払督促・民事調停・破産手続参加などがあると、その事由が終わるまでのあいだ時効は完成しません。
一方の「更新」は152条の承認と、147条2項です。
前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
どちらも「新たにその進行を始める」と定めていて、経過した期間がゼロに戻ります。
猶予は止まるだけで、更新は巻き戻ります。債権者から裁判所を通じて請求が来た場合と、こちらが支払いを約束した場合とで効き方が違います。
だから相談の前に取引履歴を出す
古い借金がある場合、時効が完成している可能性を先に確かめる順序になります。承認してしまうと、その可能性が消えます。
取引履歴の取り寄せは債務者の権利として貸金業法に定めがあります。手順は相談の前に取引履歴を取り寄せるにまとめました。
保証人にも効力が及ぶ
民法457条1項です。
主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
保証人を立てている借入がある場合、こちらの承認が保証人の側にも効きます。保証人に相談せずに進めると、後から説明が難しくなります。
自己破産の場合に保証人がどうなるかは官報に載るのはどの手続きかに書きました(破産法253条2項が、免責は保証人に対する権利に影響しないと定めています)。
減るのは超過部分で、元本ではない
任意整理で減額されるのは、多くの場合これまでに払いすぎた利息の引き直し分です。利息制限法1条は上限を超えた部分を無効としているだけで、元本が減る根拠は条文にありません。
上限が元本の額で3段階に分かれることは過払い金の仕組みは上限金利で決まるにまとめました。上限内で借りていた場合、引き直しても減りません。
途中で払えなくなったときの戻り先
任意整理は和解の合意なので、約束どおり払えなくなった場合はそこから改めて交渉するか、裁判所を通す手続きへ移ることになります。
移った先で、任意整理のときに承認した債務がそのまま残っている点は押さえておく箇所です。承認によって時効が更新されているので、古い借金について時効を主張する道は、その時点では閉じています。
個人再生や自己破産で何が残り、何が残らないかは個人再生と自己破産は残せるものが違うにまとめました。
信用情報には残る
裁判所を通さないので官報には載りませんが、信用情報は別です。CICが保有期間を公表しています。
どれだけ残るかは債務整理のブラックリストは信用情報にどれだけ残るかにまとめました。
手元のクレジットカードがどうなるかは、信用情報とは別に決まります。対象にした会社のカードは止まります。対象外にした会社のカードも、更新のときに審査が入れば通らないことがあります。分け方は債務整理でクレジットカードはどうなるかにまとめました。
家族のカードは名義で分かれます。**家族が自分の名義で契約しているカードは、別の人の契約なので影響を受けません。**自分が本会員で家族に持たせている家族カードのほうは、自分の契約が終われば一緒に使えなくなります。
家族が保証人になっている場合だけは、カードとは別の話になります。上の保証人にも効力が及ぶのとおりです。
手続きごとの向き不向き
| 決めるのは | 官報に載るか | |
|---|---|---|
| 任意整理 | 債権者 | 載らない |
| 個人再生 | 債権者の多数と裁判所 | 載る |
| 自己破産 | 裁判所 | 載る |
任意整理だけ、相手が応じなければ何も決まりません。
依頼する前に確かめること
- 借入先ごとの残高と、最後の取引がいつか
- 時効が完成している可能性のある借入があるか
- 保証人を立てている借入があるか
- 上限金利を超えて借りていた期間があるか
- 費用は1社あたりか総額か
2と3を飛ばして交渉に入ると、後から戻せません。 1の資料が無いと2も4も判断できないので、順序としては履歴の取り寄せが先です。
費用の内訳は債務整理の弁護士費用は1社あたりか総額かで変わるにまとめました。
迷ったときの窓口
法テラス(日本司法支援センター)は、収入等の条件を満たす場合に無料の法律相談を扱っています。各地の弁護士会・司法書士会にも相談窓口があります。貸金業者とのやり取りでもめている場合は、消費者ホットライン 188 が窓口になります。
任意整理を頼む相手には上限がある
任意整理は裁判所を通さない話し合いですが、代理できる相手は決まっています。司法書士が代理できるのは1社あたり140万円まで(司法書士法3条1項7号と裁判所法33条1項1号)で、しかも認定を受けた司法書士に限られます。
確かめ方の例として、大阪のアース司法書士事務所は、事務所紹介のページに代表者の認定番号(第612074号)と大阪司法書士会の登録番号を載せています。番号があれば司法書士会に問い合わせられます。弁護士との違いは司法書士と弁護士の違いは140万円で分かれるにまとめました。
まとめ
- 任意整理は債権者の同意が前提で、応じる義務を定めた条文は無い
- 民法152条1項により、承認があると時効はその時から新たに進行を始める
- 同条2項は、承認に処分の権限を要しないとしている
- 民法457条1項により、時効の更新は保証人にも効力が及ぶ
- 減るのは上限を超えた部分で、元本が減る根拠は条文に無い
- 官報には載らないが、信用情報には残る
新しく借りられなくなる仕組みのほうは総量規制は誰にかかっているのかに条文から書きました。
交渉に入る前に、請求がすでに残額の全部になっているかを見ておきます。そうなる条件は期限の利益の喪失|残り全部が一度に来るにまとめました。